黒いトランク

日経日曜版の有栖川有栖氏の連載記事「ミステリー国の人々」で、鮎川哲也著「黒いトランク」のトリックがすばらしいという賛辞を見た。興味を引かれ、Amazonで 「黒いトランク (創元推理文庫)」を買って読んでみた。

それ程丹念に読んだわけでもなく、謎解きに挑戦する気も無かった。時刻表や細かい注書きは読み飛ばした。はじめは少しづつ読み、一気読みするほどではなかった。しかし、後半はほぼ一気読みだった。
確かによくできた話で破綻がない。途中でトリックを見破ることもできなかった。読み終わってから、トランクについてざっと見直しもした程十分楽しめた。

しかし、やや作為的すぎる印象で、一応理由が書いてあるものの、こんな凝ったトリックを実行する必然性に疑問も感じた。登場する警察官が皆優秀で、てきぱきと事件を解明して行くのは読んでいて気持ちが良いが、優秀すぎて不自然な印象も受けた。

破綻なく物語がうまく出来ていて感心したという点で言うと、昔読んだ「時間テーマのSF」であるハインラインの「夏への扉」や、広瀬正の「マイナスゼロ」の方がはるかに感動した。これは私の好みのせいかもしれないし、年のせいで謎に対する興味が薄れたのかもしれないが、正直な感想である。